M「半身」サラ・ウォーターズ

創元推理文庫


というわけで、とりあえずこの間読了したコレを。なんとなーくタイトルは知ってました。色々評判になってたので。
で、「ミステリ」としての評判がすごいという記憶があったので、いちおそのつもりで読み始めたんだけど…


節子ちゃう…これミステリちゃう…恋愛や…ゆりんゆりん小説や…。


いや正確にいえば、ちゃんとラストどんでん返し?もあるし、そのつもりで読み返せば、そこここに伏線もあるんだけど。


まあ正直序盤〜中盤はゆるゆるですね。ゆったりですね。
監獄の描写とか女囚とか看守とか上流階級の息苦しさとか面白いんで、特にダレることなく読み進められるんですが、そこにミステリとしての面白みがあるかというとそうでもないんで、早々に「時代小説」的な感じで読んでました。


主人公マギーがねえ〜。暗いというか自己憐憫が激しい頭カチカチ子ちゃんで。
周りに対してバリア張ってて内心相手を見下しつつ、「私の孤独感は誰にも理解されない」とばかりに日記ばっかり書いてて。
って、こう書くととてもウザイ女性のようですが、私は「ああ〜、なんか可愛いなあ」と思いました。いやまあ、人によれば鬱陶しいタイプなのかもしれませんが、その融通の利かなさが、「不器用なんだなあ」という感じで愛しくて切なくて篠原涼子です。


だからねえ!色々許せん!!


ちょっとさあヒドくない?シライナやることが。
大体、初対面の時「あなたに慰めてもらう必要はない」「大体なぜあなたにあれこれ話さなければならないの」と言い放っておいて、次に会ったらいけしゃあしゃあと「あなたとお話をしたかった」。
はい?ですよ。
おっかしーなあと思ったんですよ。脱獄するためにマギーを利用したいだけだったんですよ。
結局シライナは、自分の恋人ルース=ヴァイカーズ=ピーター・クイックと一緒に高飛びするためのお金から何やらをマギーから騙し取って姿を消すんです。ひどいですね。
最終一つ前の章で暗示されるのは絶望したマギーの自殺です。
昔の恋人(女性)に宛てた歓喜の手紙が、嗚呼驚き、そう思って読めばまんまと遺書そのままというのも、作者の意図通りでしょう。
先ほど「ゆりんゆりん小説」と書きましたが、ポップな語感とは程遠い後味の悪さです。


そう、この後味の悪さが、いまいち私がこの小説を好きになれない理由のように思います。
別に悪くない、退屈はしなかった、この時代の風俗や時代背景など細かく書きこまれているし、過去未来の日記が交錯するさまもよく出来ているし、ラストで明かされるオチもなかなかだと思うのですが
だからと言って特筆するほど凄いわけではない。少なくとも後味の悪さを補って余りあるほどではないし、特に手許に置いて何度も読み返したいという気にはなれなかった。
もう歳なんでハッピーエンドがええです。あと最近の推理ものはおしなべて陰鬱なんでイヤン。


あと自分の為のネタバレ備忘録。
・冒頭ブリンク夫人がピーター・クイックを見て驚くのは、ピーター=自分の侍女ルースと知ったから。
・ピーターが夫人の手のランプを見て両手で顔を覆って「明りを消せ!」と叫んだのも、その後すぐルースに戻って夫人の元に戻りずっと手を握り「ここにおります」と言い続けたのは、「何か言いたそうで声が出せないよう」な夫人に余計なことを言わせないため。
・マデリーンが言う「ピーターの手がざらざらした冷たい手」というのは女中ルースの荒れた手だから。
・マデリーンがドレスを脱がされたのやピーターのガウンの前が開いて白い両足が剥き出しだったのは、マデリーンを「開発」するため。