S「半身」サラ・ウォーターズ

創元推理文庫


失礼ながら、あまり期待せずに読みました。
重苦しい監獄や英国の上流階級の家庭の描写は面白く、お話もスムーズに読んで行けました。
Mさんも書いていましたが、不器用な主人公がもうもどかしくて。でもひたむきで可愛くて。


娘を縛り付けようとするマーガレットの母はとても嫌な人だと思っていたけれど、全てが見えてしまうと見方が変わる。
娘が義妹にあたるヘレンに抱いていた想いも知っていて、自分の事ばかりしか頭になく、結婚しそうにないし…この子はこれからどうして生きて行くつもりだろうと苛立つのもわかる気がする。


マーガレットは頑固で可愛げがない。でもこの時代にレズビアンで頭が良くて自由を求めてて美貌でもない人は生きにくい。頑固にも偏屈にもなるだろう。最愛の父を亡くすと味方がひとりもいないと思って閉じこもりたくもなるだろう。
面倒くさい子だなぁと思いながらも、どうしてもマギーに感情移入して読み進めてしまう。作者の思惑通り、私もすっかり騙されてしまった。マギーと一緒になって「シライナはやはり特別なのかも」と思い始めていたお目出度い私は、結末で激しくがっかりしてしまった。
設定が女性同士の恋であるだけで、からくりが見えたら下世話な話。運命の恋に落ちたつもりがプロの結婚詐欺師に騙されてたというような話だと思う。それをゴシック仕立てに組み立てたのは筆者の腕前かもしれないけれど…後味が悪い。
からくりが薄々わかってくると「開発」という言葉の響きも、なんかもう嫌ぁな感じ。


それにしても、読後に一番気になったのは全てを支配しているヴァイガースのこと。彼女のバイタリティー、その魅力、頭の良さ。あまり直接的に書かれていないその人の姿がとても印象に残った。
ミルバンクの女囚とか看守とかは個性様々で面白かったけど、どの登場人物もあまり好きになれなかったのが、今イチ盛り上がれなかった理由だと思う。