S「クリスマスに少女は還る」キャロル・オコンネル

東京創元社


もうこれは、早くも今年のベスト1決定かもしれない。
これまたMさんのレビューでほとんど言い尽くされているのですが、書かずにおれません。


誘拐された10歳の女の子達が渾身の力と知恵を絞って逃げ出そうとすお話。
その立役者、ホラーマニアの少女サディーの事が好きになりすぎて…胸が痛い。
サディーは勇敢で怖いもの知らずで身体能力がものすごく高い子だけど、独りよがりの姉御肌ではない。グウェンに素直に謝る所とか、「これでもいっしょうけんめいやってるの」と呟く所はいたいけでたまらない。
いつも全身紫ずくめで自転車もアドレス帳もパーカーも紫!
読み始めて2日目から私は紫の服か小物を身につけていますのよ、おほほ(影響されやすい)。
最初はサディーを応援する気分で。読後の今はサディーのことを思っていたいから。


この物語に出てくる人々は、主人公サディーと親友グウェンを始め、ただその場にいるだけの捜査官、通りすがりの市民まで生き生きしていて心のふるえが伝わってくる。魅力的な人物がこれでもかと出てくるし、思わせぶりではないのに印象的なシーンもたくさんある。
決して悲しく辛いだけではなくて優しい時間がそこここに流れている。色々なシーンでぐっとくるし、油断すると涙ぽろぽろ。
Mさん同様、サディーのママが捜査会議に乗り込んでくるシーン、皆で野球を始めるシーン、目に焼き付く様な素敵な場面がいっぱい。私はグウェンの足に噛み付いて怪我をさせた獰猛な犬を手懐ける所、犬が死んでしまう所も泣けました。警察の窓の下に人々が集まってきて無言で訴えるシーンも好き。
伯父さんの春の女神が見えそうな温室とか、矮小化した木が生えている地下のキノコ栽培温室なんかは映像で見てみたい、ぜひ行ってみたい。


それにしても、結末は想像を超えた荒技。ありえない転換。衝撃的です。
私はグウェンが見たものを信じたい。これ書いてるだけで泣きそうです…うう。




2冊続けて読みましたが、対照的な読後感でした。
奇跡かと思ってたらまやかしだった「半身」。
知恵比べだと思ってたら奇跡だった「クリスマスに少女は還る」。
後は登場人物の魅力度と愛情深さかなぁ。それと救いのある結末がなにより違うと思う。
マーガレットとシライナが駆け落ちできてたとしても、救われたとは思わないですけど。