M「蛇岩」ディルク夫人

創元推理文庫

 

S様の「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」を読みタイトルの意味についてつらつら考えていたら、辿り着いたのがこの短編。
ベティはゾルグを激しく愛し彼の子供を産むことを待ち焦がれていましたが、
ここに登場するのは、夫を激しく愛するあまりに子供を拒否する女性です。

 

舞台は北海の端。周囲と隔絶した城。海からそそりたつ大岩。そして呪いの血筋。うわあ陰鬱…。

 

狂気の父と母を持つ娘は、土地外から来た男性に一目で心を奪われ結婚しますが、子供を欲しがる夫が理解できません。
「わたしだけじゃ足りないの?」と叫び夫にすがるものの、夫は夫でその激情が疎ましい。娘を突き放し「気が狂ったのか?」と言い放ちます。

 

それがきっかけで次第に狂気に陥る娘。しまいには産んだ子供を夫に差し出し、「お前の汚い襤褸だ。あたしは要らない」と叫びます。

 

この作品の主題は子供云々ではなく、呪われた一族とその行く末なのですが、「気が狂ったのか?」と云われた娘の、顔が雪のように白くなり急に穏やかになる様子が、静かな狂気と諦念を思わせて遣る瀬無かったです。

 

イギリスの女流作家ですが作風は北欧の雰囲気を感じさせる荒涼さ*1です。ちょっと独特でした。

 

 

*1:個人的にはノルウェー作家ヨナス・リーを想起したり