S「トリスタン・イズー物語」ペディエ編

SandM2005-03-28

岩波文庫


中世ヨーロッパの大悲恋。人食い竜や竪琴、美しい髪の乙女、妖精、魔法の鈴、騎士の輝く鎧。読んでいるとステンドグラスに固い線で浮かび上がる物語を眺めているような気分になる。美丈夫トリスタンはイズーの伯父モルオルトの敵、黄金の髪のイズーはトリスタンの伯父マルク王の后となるべき人。マルク王とイズーが飲むはずだった愛の秘薬を飲み交わしてしまった為に、ふたりは死ぬまで愛に翻弄される。
悲しみに包まれて生まれたから「悲しみの子」と名付けて死ぬなんて、母后もあんまりだと思う。美貌も武勇も気高さも備えているのに、その名前と共に不幸を与えられてしまったトリスタン。恋人達の運命の厳しさ・理不尽さは、ケルト地方の自然の厳しさや、ヨーロッパの近寄りがたい建築物をイメージさせる。