M「デンデラ」佐藤友哉

新潮文庫



実は以前「エナメルを塗った魂の比重」を読んでいまして、その余りのアイタタタタぶりが印象的でしたんで、今回老婆ばかりのお話と聞いてちょっと意外でしたが、これはこれで楽しく読めました。
70オーバーの老婆達が皆とんでもなくタフなところとか、“70年頭を使わず生きて”きて、おそらく教養もないだろう斉藤カユが普通に会話で「韜晦はやめろ」「愚弄するのか」という言葉を使うところとか、ありえないと言えばそうだけど、「ですます」調の地文といい、狙ってやってるんだろうなあと。
その辺がいかにも物語チックで、リアリティ排除されてるんで逆にスルスル読めましたねえ。ほんと数時間で読めちゃった。


人喰い羆の描写はえぐいと言えばそうですが、三毛別羆事件は読んでたので、へこたれることなくクリア。
貧しい村の風習「お山止め」「指切り」「雨止め」「垂れ口」「垂れ股」という数々の暴力も、悲惨なんですが、前述の「つくりごと」感で大丈夫でした。


話は二転三転。
始めは村を襲撃する話かと思ったら羆との戦いで、かと思ったら疫病の話が出てきて、したら仲間割れで堂々たる100歳老婆が中盤であっけなく死んで、残りの穏健派筆頭も羆に殺されて、50人いたデンデラの人数は6人に。うち三人はラストまでに死ぬし、残り三人はどうかなあ。デンデラ再建すると言っていましたが難しいかも。(このへんあまり関心持てず…笑)


でも主人公の斉藤カユは最後まで走る。そこがちょっとカッコ良かったかな。
考えさせられるとか衝撃とかはないけど、エンタとして楽しく読めました。


しかし解説にはぐったり…。すごいなあ、ここまで本文の面白さを削ぐ解説久々に見ましたよ。
まさに「生きた小説を標本にする」解説ですな。