S「デンデラ」佐藤友哉 

新潮文庫



70歳を迎えて山に捨てられた老婆達が生きて村を作っていて、人喰熊と戦う話。
お話としては以上!なのだけど、面白かった。
サバイバル小説。63歳から100歳の老婆達がタフ!私よりもずっとタフ!



名前がみんなカタカナで可愛い。おばあちゃんぽくもあり、アニメ的な感じもする。
私の祖母の名はミツだったし、姑の4姉妹も全員カタカナ2文字の名前なので妙に親しみが湧いた。


主役のカユをはじめ老婆達の言葉遣いが不思議。方言だと男言葉の所も多いし、おかしくはないのだけど。
お互いをフルネームで呼び合っているのも、なんだか女学生みたい。
母熊・赤瀬の本能で動く感覚が好きだった。人間はそれぞれに思想や私利私欲があるが、熊は怒りと空腹で動く。
熊の方により共感できた。熊、頑張れ!全員もう食べちゃえ!と思ったりした(ごめん…)


とにかく熊が出てきてからは流血の惨事やグロテスクな描写が多い。
スプラッター映画かコミックを読んでいるような感じで、グロイけれどあまりリアルさはない。
とにかくほとんど食べていないはずの老婆達の体力が素晴らしいので、リアルさがほどよく消えている。
ラストはカユと共に走っている気がして、カユとも熊とも一体になったような不思議な浮遊感があった。
この終わり方は、なかなか良いなと思った。


小説はスピード感があってどんどん読めて面白かったけど、文庫版解説がいただけない。惜しい。
テクストを解体して分類して、なーるーほーどねーと納得する。
構造的に民俗学的に様々なアプローチでよく説明されていると思う。
でもこれを読んで一気に冷めてしまった。生きた小説を標本にしてしまう苦手なタイプの文学評論。