M「孤独の街角」パトリシア・ハイスミス

扶桑社ミステリー


ああこれはね!なかなか読み応えありました!


ハイスミス、短篇はいくつか読んでいたのだけど長編は初見で、読んですぐはアイリッシュと似た手触りを感じました。都会/孤独/ 何よりその孤独な人物を見つめる冷徹な視点。主要人物三人の関係性だけで、ぐいぐい読ませる手腕もさすが。


まず出色なのが、守衛のラルフ・リンダーマン。犬と一人暮らしの初老の男。カードのGODの文字をDOGに書き換える無神論者。
カフェで見かけた若く美しいエルジイに執着し、彼女の事を何も知らないのに「あんなに美しければ悪い仲間にひきこまれるはず」と思い込み、正しい道に戻すべくせっせと忠告する。職場でも同僚とうまくいかず何度も首になる。うーむこれは!
実際傍にいたら敬遠して接触は避けますが(ヒドイ)本の中で出会うと思わず前のめりになってしまうワタクシ。
この人物の生活ぶり、思考を、ハイスミスは執拗に描写していきます。いやーもう、この人が書きたかったんちゃうん!つうくらいの熱の入り方です。


もう一方、こちらが主人公、イラストレーターのジャック。妻も子もいてお金には不自由してなくて、上流階級とのつきあいもあり。でもこの人、いつも解説曰くの「教養ある者の洗練された出方」に適ってるか/人からどう見られるかを心配してるような感じ。エルジイへの恋心を感じても、自分を保護者と任してみたり、まあなんつうか、ええかっこしいです。
三人目は二人を惹きつけるエルジイ。彼女は恋人に女性を選びますが、強い自覚や思想あってのレズビアンという感じではなく、その方が居心地いいから、位の理由のようです。気まぐれで自由で、まあこの年頃によくいる若い娘っこです。


この三人を軸に、エルジイとベッドを共にするジャックの妻や、妻の友人でゲイのルイスとか。ルイスはパーティ好きで広い自宅に3-40人も集めてもてなしたりしますが、病気を苦に最後のパーティを開いた後自殺します。これ舞台はニューヨークなんですが、「ああニューヨークのゲイ」という感じしましたねえ。イメージですけど。


結構長いですし特に大きな事件が連続して起こるわけじゃないんですけど、全然飽きません。
読んでてなんとなく、ハイスミスという人は、女性も男性も嫌いだったんじゃないかなあと感じました。どちらに対しても辛辣なんですよねえ。例外はゲイのルイスに対してだけかなあ。彼女は女性嫌いのレズビアンだったという説もあるみたいで、うーん、ちょっと納得かも。
始まりと終わりはとても映画的。そういえば「太陽がいっぱい」も「アメリカの友人」もハイスミス原作だったなあと思い出しました。