S「三島由紀夫レター教室」三島由紀夫

SandM2005-04-12

ちくま文庫


20歳から45歳までの5人の男女がやりとりする手紙だけで構成された小説。三島全集読破の勢いで夢中で読んでいた大学生の頃、この本にはちょっと「?」となってしまった。深刻で華麗で切れ味鋭く…というそれまで読んだ作品の印象とはかけ離れいる。女性週刊誌に連載されたというのも彼に似合わないし、内容もほのぼのコメディータッチ。
20歳のミツ子とほぼ同じ年だった私は、劇団員タケルとの若い恋や楽天家トラ一のマヌケさは笑う事ができた。でもちょっと意地悪でおせっかいな45歳のママ子や、同じく45歳でミツ子に「肉体的な愛の申し込み」の手紙を書くデザイナーのトビ夫を登場させる理由が全くわからなかったし、魅力も感じなかった。ところが今読んで面白いのは、この枯れない不良中年のふたり。今や私はミツ子派ではなく、「今にこういうマダムになってやるわよ、うふふ」と不敵な笑みを浮かべ、ママ子派になったのだ。
メールは毎日書いても、手紙を日常的に出す事はあまりなくなった。そういえば、昔は絵葉書や便箋を持ち歩いて、暇さえあれば書いていたなぁと懐かしく思い出す。書いた手紙が相手に届いて読まれる迄の時差に味わいを感じる。