S「シンデレラ迷宮」氷室冴子

SandM2005-03-12

コバルト文庫


「森を出るべきでなかった」という一文が象徴的な、外の世界への旅立ちを描いた小説。少女が目を覚ますと、周囲を様々な女達が取り囲んでいた。リネという名前の他は記憶を失ったまま女性達の家を順に訪ねるうち、思い出したくない記憶が少しずつよみがえる。実は彼女達は皆物語の登場人物で、聞くとどのお話もなぜか悲しい結末に終わってしまっている。白雪姫の継母、白鳥の湖のオディール、眠り姫、かぐや姫、一番好きだったジェイン・エアまでも不幸な運命に囚われている。大好きだった登場人物達まで自分の心の迷宮に閉じこめてしまった事に気づいたリネの後悔と葛藤がせつない。現実逃避した安全な世界から、一度は否定した現実に戻る部分は涙なくしては読めない。
古典作品の中で取り澄ましていた登場人物が、迷宮の世界では普通の女の子の言葉で活き活きと語り出す。誰でも幼い頃から友達のように大切にしてきた登場人物やヒーローがいて、自分だけの森を持っているのではないだろうか。私がジェイン・エアを特に贔屓にしているのは、多感な頃にこれを読んだせいかも。