S「羊たちの沈黙」トマス・ハリス

新潮文庫


カニバリズム、しかも美食家とくればハンニバル・レクター博士を思い出す。映画での天井から翼を広げたように吊された死体(美しかった)や飛び交う蛾(本当に嫌だった)の映像が強く印象に残っているけれど、原作もとても面白い。読み進むうちに、細かい描写が心理的に追いつめて来る。連続殺人鬼を追っていたFBI訓練生クラリスが助言を求めたのが、投獄されている元天才精神科医にして殺人鬼のレクター博士。彼がクラリスの心を籠絡しようとする過程がスリリング。
犯人のバッファロービルは若い女性を殺して皮を剥ぎ衣服を縫っていた。肌の(皮の)色やサイズにこだわって素材を探していた職人なのだ。何とも猟奇的な話だけど、これと似た事が人間意以外の動物には平気で行われている。羊や牛が放し飼いにされている牧場で良い匂いをさせてジンギスカン鍋を食べたり、牛皮の衣服や加工品を身につけていたり、無神経この上ない。生け簀にいる魚は厨房が見えると嫌だろうなぁ、とも思う。水族館では回遊する鯵の水槽前で「タタキ!塩焼き!南蛮漬け!」と狂喜する私だけれど。