S「赤いろうそくと人魚」小川未明

潮文庫


美しく哀しい童話集。たった3頁半の作品「金の輪」では、病気で長い間寝ていた太郎が主人公。やっと起きられるようになって外に出た時、2つの金の輪をまわしながら走ってゆく少年と出会う。2日続けて現れ微笑しながら走り去る少年は、ずっと親しい友達だったような懐かしい気持ちにさせる。夢の中で太郎は少年と友達になって輪をひとつ分けてもらって、一緒に夕焼け空の中へ走って行く。するとあくる日からまた熱が出て、7歳で亡くなってしまうのだ。この結末は可哀想だけれど妙に開放感があって、なぜか福永武彦の「飛ぶ男」を思い出す。
月夜に蝶が訪ねて来たり、からすが歌ったり、ほのぼのと暖かい気持ちになる話もあるが、滅びたり枯れたり死んだりする話が結構多い。子供だった私は少し憂鬱な気分にどっぷり浸かって、小さな文字の文庫本を何度も読みふけった。