S「私の嫌いな10の言葉」中島義道

新潮社


哲学者の作者が本気で嫌う10の言葉。善良な人達の優しく思いやりのある言葉には不純で残酷なものが潜んでいる。「おまえのためを思って言ってるんだぞ!」「自分の好きなことがかならず何かあるはずだ!」の章は納得。建前だけの言葉は相手をやんわり絞め殺そうとする。本当は目障りだから優し気な言葉で矯正(排除)しようとする。雰囲気が悪くならないことが重要で、みんなが場の空気を察して感じ良くしていることが望ましい。上辺だけの会話、予定調和的な笑い。
私は「きれいごと」が好きだ。現実がそうじゃないことは重々承知しているからこそ、一欠片だけでもきれいなものがあればと願う。だけど真実のないきれいな言葉には目眩がしそうになることがある。自分の感性を研ぎ、血の通った言葉だけを選び、身体を張って生きていく。そう決意した人が周囲とのトラブルなく暮らすのはきっと難しい。ハードボイルドだなぁと思う。