S「そして、アンジュは眠りにつく」 島田雅彦

新潮社


島田君がアイドルだった。下町育ちの私には彼のテーマ「郊外の街」が実感できなかったけれど、端正な外見もインテリぽさも青二才振りもかなり好みだった。ロシア語学科でチェロが演奏できるのだから、そりゃ惚れますよ。シェーンベルグを聴いたのも、彼の影響だった。
この本はカバーイラストが金子國義で、9つの短編が収められている。7話目に犬なみの嗅覚を持つようになった女が好みの匂いの男を追いかける話(奇跡の鼻)、あとがきには砂漠で遊牧民のテントに招かれてミントティとラクダ肉の串焼きでもてなされたエピソードがあった。最近聞いたような書いたような話で驚く。またまたシンクロ?
タイトルの「そして、アンジュは眠りにつく」は9話目である。アンジュは天使じゃなくて「安寿と厨子王」なのかもしれない。とても短いお話だけれど、胸がきゅうっとなる。涙がこぼれる少し手前のせつなさ。