M「二つの脳を持つ男」パトリック・ハミルトン  

小学館


『絶対的な「美」への片思い』の言葉で、ついこの間読んだこの本をふと連想しました。勝手に連想しただけでまったくニュアンスは違うんですが。振り向いてくれない女にひたすら恋焦がれ、絶望的な片思いを続ける様子が切ないです。分裂症の男が主人公なのですが、それによる心理的スリラーな感じはなく、どっちかっつーとハードボイルド臭い。それは分裂症という設定が「にくい恋しい、にくい恋しい(雨の慕情の節でお読みください)」なアンビバレンツな気持ちを表現する一手段にすぎないからなんでしょうね。各章の扉にシェイクスピアシェリーやコールリッジやトマス・ムーアを引用してるんですが、ジョン・ミルトン「サムソン・アゴニスツ」が一番多くて、それがちょっとぐっときました。