S「人魚の嘆き・魔術師」谷崎潤一郎

中公文庫


悪夢のように美しい短編がふたつ収録されている。妖しい挿絵も冊子の薄さも丁度ワイルドの「サロメ」を思わせる。
南京に住む退屈した貴公子が西洋人から買い取った人魚に心惹かれる「人魚の嘆き」。「魔術師」では美しいアンドロギュノスの魔術師に魅せられた恋人達が、進んでその身を投げだして獣に変えてもらう。いずれも絶対的な「美」への片思い。
毒々しい色彩の言葉が次々と目の前を通り過ぎ、ちょっと頭がふらつくような感じの読後感がある。少し熱っぽい午後、読んでそのまま微睡むと贅沢な夢が見られそう。