M「スロー・リバー」ニコラ・グリフィス

早川書房


うわああこれは。
大富豪の娘フランシス・ロリエン・ヴァン・デ・エストが誘拐され、逃げ出し、地下アウトロー生活の後、下水道処理場で働く作業員として働き始め、そこで破壊工作事件に直面し、誘拐事件の真相にたどり着く。


「大金持ち娘時代」「ハッカーとして生計をたてるスパナーとの同棲時代」
「下水道処理場で汚物をさらって働く作業員時代」
この三つの時代が交互に描かれますが、混乱することなくスッキリ読めるのはさすが。
どの時代も過去から未来へと描かれるので、興味が弛まず持続します。


幼児の虐待の記憶。レイプされ続けた誘拐時。毎夜体を売らざるを得なくなったアウトロー時代。
これだけの凄まじい経験をしつつ、けれど自己憐憫に浸るのはこれが最後と自分を戒めるローア。
実際こんな状況になったら、もとが大金持ちだけに、そんな心持になるのは難しいかもだけど、物語ですからね。こうでないと。


そしてローアが自分自身と向き合おうとしたとき、ばらばらだった三つの時代は融合し、ただのローアとなる。
このへんはすごく良かったです。メインテーマかも〜。
出てくるラブシーンはすべて女性同士ですが、それが当たり前のように描かれていて、とくにこだわった感じもなく自然な感じでした。


ちょこちょこ出てくるSF小道具も楽しかったけれど、どっちかというと貴種流離譚という感じで読んでました。
一人の女性の成長譚という感じでもあります。力強かったなあ。