S「シモネッタのデカメロン イタリア的恋愛のススメ」田丸公美子

文春文庫


これは御年82歳になられる昔の職場の元上司からのおススメ本。最近の私はとんと手に取ることもなかった恋愛本なのです。
これを手に取ろうと思った元上司はまだまだ現役感覚で、頼もしいですねぇ。ますます素敵でオモロいおじいちゃまになってほしいものです。



内容は、30年以上イタリア語通訳として活躍された筆者が出会った愛すべきイタリア男達の武勇伝の数々。
アメリカナイズされたスマートな現代イタリア男達とは違う、バブル期よりもずっと前の泥臭さの残る男性達。どんどん中性化して安全になってきた現代男性(特に日本の)とは笑ってしまう程に別の生き物です。
ちょっと赤裸々過ぎてもうどうしよう…と思う内容なのですが、そこはかとなく品がある。多分ご本人は真面目な人で、実体験ではなくてすべて聞き書きな所がギリギリの線を保っている秘訣かな。
ちょっと可愛くも情けない、女性をくどく事に必死なイタリアメンズ。そんな男性を操る女性や、離婚できない(当時は)事を逆手に開き直る女性の姿もリアルで魅力的。
私の好きなマルチェロ・マストロヤンニの時代の、陽気さの中に悲しみを秘めたイタリア映画を思い起こさせる攻防が繰り広げられる。



くすくす笑って読める本編も面白かったのだけど、巻末の米原万里さんとの対談が良かった。
元ロシア語通訳の作家、米原さんと田丸さんは長年の友人で、この対談は彼女が2006年に亡くなる前年のものだ。病を押して、友人の新刊出版の為にやってきた米原さん。いつもと変わらない軽口を叩いて、ガールズトーク(大人ガールだけど)に興じている。


そして文庫版あとがき「万里と私の最後の一年」が続く。
無二の親友を失って一年後の作者の痛みと寂しさが伝わってくる。素晴らしい友達を持った誇りと大きな喪失感。
しーんとした静かな悲しみの中で、でもそこには確かに続く友情がある。
書斎で親友の遺品に励まされ前を向く姿に、なんともいえない読後感がずっと続くのである。