S「太公望」宮城谷昌光

文春文庫


定年を迎えられた元職場の方から「太公望を気取って釣り糸を垂れる毎日です」と葉書を頂いたのが、もう10年位前。それからずっと気になっていた太公望をやっと読んだ。諸星大二郎のマンガに出てきたあの人かと気づいたのは読後のこと。



簡単すぎる粗筋を言うと、商王に一族を殺された遊牧民族の少年・望が共に生き延びた5人の子供達と共に戦って商を倒す物語である。
面白くて上中下巻をひたすら読んだ。これからどうなるのかとドキドキして、続々と出てくる登場人物の整理はそっちのけで荒筋を追って読んだのが1回目。
ただ今2巡目だけど、「この人はいつから出てきた人だっけ」と思っていた人がいきなり1巻から出てきてる。長いつきあいの腹心の配下じゃあないか。走り過ぎだったな、私。でもそれもこれも、お話が面白いからなのである。
小さな6人の子供達から始めて、どんどん族人が増えて国を率いるようになる。どの子供達もそれぞれに個性的に成長して行くのも楽しい。



伝説ばかりがたくさん残っていて、実像はあまりわかっていない人らしい。
他の人の作品も読んでみたいけれど、このストイックなヒーローとしての描き方が好きなのかも。
占いや祭事の為に膨大な数の異民族を殺して生け贄にする商を憎み、そのような政治を否定する立場にいる望。でも実は山霊に愛され、剣を取れば神業を使う望。
多くの人の命を奪う商を否定し、でもその商を倒す為にはたくさんの人命が奪われることに胸を痛める望。その葛藤も魅力的。
とにもかくにも、剣術遣いで軍師って格好良い。
ミーハーな読み方だけど、なんとも素敵な太公望なのです。