M「影絵」宮尾登美子

SandM2010-05-12

集英社文庫


短篇集。四編入っています。
読んだ当初は「連」が、きみこ(漢字が出ない)の凄絶な最後の姿や供養塔の中で青い光を放つ屑珠、等の描写のインパクトが強かったのですが、時間がたつにつれじわじわと、「夜汽車」の方を思うようになりました。


「夜汽車」は、芸妓娼妓を扱う家に生まれた17歳のゆき子(漢字出ない)が、住替えのため同い年位の妓を二人大阪まで連れて行く話。
妓達はまだ幼さの残る田舎出の様子で、幼馴染みらしく親しげに囁きあい、病身の妓をもう一人が庇って重いトランクも二人分提げて歩き「私がお前の分まで働くきに」といたわる姿が切々と沁みます。
妓の一人、露子が、ゆき子の笑顔に応えなかったり等というのは、
ゆき子の思う「商売女を不潔だとひそかに蔑んでいる胸の内を素早く覗い」たから・とまでは、
読んでいる私は思わなくて、それはゆき子の少女らしい潔癖な考え方ゆえかと感じるのですが、
では露子の内に何もないかと言えばそうでもない、そこまでの感情はなくとも、「私たちとこの人は違う」といった、線を引いた気持ち・何かキッパリとしたものを感じて、露子を好ましく思いました。


あと「卯の花くたし」はこわい。松の介は初めっから売るつもりだったのかなあ。
手をかけられ大事にされ自分でも日に日に美しくなるのがわかればそりゃあ若い娘ごですもの、多少思い上がりもするでしょうが、
久子は別に浮気するでもなし、自分なりに松の介を大事にしていたと思うのですが。松の介も久子を慈しんでたように思ったのですが。
まあお仕事だったと。うむ。底知れない。


しかし久しぶりに読みましたが宮尾さんの文章やっぱ良いなあ…。各駅停車の電車がゆっくりと、延々コトコト走って行くようなリズム感が好きです。