M「絡新婦の理」京極夏彦  

講談社文庫


こちらもすごいです。カバラ思想から夜這いからウーマンリブからいろいろ詰め込まれてます。夜這いについて日本神話から説き起こし、“そもそも男を迎え入れる女性は女神であり尊敬された存在だったのが、それが戦後売女にしかみられなくなった”という変換の構図についての解説は、ヨーロッパの心理学者が書いた「聖娼」と同じで、たまたま同時期に読んでいたせいもあって興味深かったです。
主要人物は“家制度に絡め取られた母”“身体的制約のまま生きているだけだったのに、旧体制の男が求める理想の女性のように(勝手に)見られた長女”“自ら貞女の鑑のように振舞いながらしたたかに自らの居場所を見つけようとする次女”“己の身体が男女の境に居るが故にことさら矢面に立って女性の権利を主張しようとした三女”“少女の魔性を露にして周りを虜にし操ることで自らの存在を証明しようとする四女”と、なかなかバラエティに富んでいるし、筋自体も、とにかく構成が緻密で、冒頭とラストの整合性など、なかなか素晴らしいです。その上ちゃんと女学生視点のコーナーもあってサービス満点。わはは。京極シリーズで私は一番面白く・かつ一番読み返したかもしれないです。


それにしても、絶対物語のなかに近親相姦が入ってくるのが不思議です。なんとなくですけど、作者に、“近親相姦についてどうしても書かずにはいられない”という囚われがあるわけでもないような…。それにしてはあんまり毎回入ってて、毎回大体そこそこの描き方なので、これだけは段々飽きてきてしまいます。どうせ描くなら、もっと深くエグくやってみたらどうでしょうか。ダメですか。あと榎さんの出番をもっと多く!