M「山月記」中島敦 

SandM2005-04-06

岩波文庫


ついつい音読したくなっちゃう本で真っ先に思い浮かんでしまうのが、この「山月記」!
私は殆ど日本の方が書いた小説を読んだことがないのですがm(_ _)m、これは繰り返し繰り返し読みました。もう冒頭

隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。

から、思わず背筋を伸ばして部屋の真ん中仁王立ちになって朗々と「ろうさいのりちょうははくがくさいえい」とお腹から声を出したくなってしまいます。『自分は茫然とした。そうして懼れた。全く、どんな事でも起り得るのだと思うて、深く懼れた』『二声三声咆哮したかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった』等等、とにかく発語していて気持ち良いのです。
そして、“無我夢中で走る間に両手は地を掴み手先や肱のあたりに毛を生じ”虎に変化してしまう部分では、何故か高橋葉介さんの絵柄が思い浮かんだり、『己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢て刻苦して磨こうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出来なかった』の言葉に己も思い当たって愕然としたり。短い作品なのですが、どこも大好きな一篇です。