S「屈辱ポンチ」町田康

文藝春秋


「もっと有意義な人生を送りたい」と妻が英国留学してしまって以降、脚本家はとにかくツイていない。仕事はなくなり、部屋には肉食虫が繁殖し、家主でもある義父には出て行くよう申し渡される。仕事の依頼主である怪しい老人について行った所から、主人公は濁流のような運命にのまれ、奈落への道行きまっしぐらである。むやみやたらと殺されかける、助けてくれた正気とは思えない男の家に軟禁され、火の中を男の飼い猿アンジーと逃避行。なんで?なんで?どこからそうなるの?と問う間もなく、読んでいる自分も一緒に転がり落ちてゆく怒濤の物語「けものがれ、俺らの猿と」と、バンドマンの駄目駄目な日常「屈辱ポンチ」。
彼の小説は家に誰もいない時、音読するに限る。言葉と言葉の妙な間と音律の不思議さが意味を乗せて疾走する感じ(上手く説明できない…)。上方言葉や江戸の言葉や落語や戯言などが入り乱れており、落語好きで時代劇好きな私はそれだけで一冊満喫できる。関西弁が出てくる小説を読んで微妙なニュアンスで笑える時、大阪人でラッキー!と思うのだ。