S「遙かなる虎跡」景山民夫

新潮文庫


マレー半島を舞台にした宝探し冒険活劇。ボルネオの森林保護区でオランウータンの保護し自然に帰す仕事をしている西緑郎は、病院で同室のチャン老人から封筒を託される。手紙と3カラットのダイヤが入った封筒を老人の年若い従姉妹アイリーンに届けに行く。二人は何者かに襲撃され、緑郎はアイリーンの改造愛車ダッジ・チャレンジャー・マグナム440に乗り込んだが最後、共に“マレーの虎(ハリマオ)”の財宝を追ってマレー半島中を走り抜けることに!読み始めたら一緒に走り続けるしかない。もうご飯も食べられない、たとえ明日早くても眠っている場合ではない。
気の良い小悪党ダニーを加えた三人の珍道中、アイリーンの祖父が緑郎の祖父の親友だったという偶然、手に汗握るカーチェイス。まるでよくできた娯楽映画を観ているようでわくわくする。緑郎の名前、グリーンのメルセデス・ベンツ、ボルネオの森林と、全編にちりばめられた緑色が目に鮮やかだ。
私が好きなアイリーンはアイルランドアメリカ人の祖父を持つ中国系マレーシア人。長身で剛胆で酒豪で、なんとも格好良い。主人公である緑郎はアイリーンに引き回されている感さえある。思えば私が「免許を取るなら絶対ミッション!」と決めたのはこれを読んだせいだった。苦労して取ったのに、今やすっかりペーパードライバーだけれど。