M「ネヴァーランドの女王」ケイト・サマースケイル 

SandM2005-03-23

新潮社  


型破りな女性の伝記、ということで思い出したのがこの作品。これは1920年代に名をはせた、“ジョー”カーステアズについての伝記です。どんな人かと申しますと、大富豪の娘に生まれてモーターボートを乗り回し、男装して数々の女優と浮き名を流し、果ては小さな島を買い取って君臨した女性です。本人は知的なタイプじゃ全然なく、ただただ己の衝動の赴くまま行動しただけなのですが、それがなぜ許されたかというと、時代の背景もあったかもしれないし、本人に状況を意のままにしようとする強い意思があったのも確かですけれど、大きな要因は、やっぱりお金の力じゃないかなあと私は思いました。だって、世間でレズビアンに対する逆風が吹き始めるやいなや、島を丸ごと買い取って、道路ひいて博物館建てて病院建てて教会建てて、勿論自分のすむ白亜の家も建てて島へ逃げ込んで、そこで奴隷に囲まれ王様然と暮すのですもの。そりゃあ、『あたしが追い出されたんじゃないよ。見捨ててやったのさ』とうそぶくことも出来るよねーと思いました。それは愛人や友人に対する態度も同じで、気まぐれ悪戯の数々はしばしばイタズラの域を越え、刑事事件になりかねないのも多々あります。
個人的には全く好感の持てない人物なのですが、その人生が終わりに近づくにつれ、思わず涙してしてしまいました。それは彼女が“トッド・ウォドリー卿”と名づけた人形に対する偏愛です。布地は褪せ、肌色が剥げても、なお捧げるその愛情が、哀しく切なく感じました。とても面白かったです。