M「饗宴 他」吉田健一  

図書刊行会


吉田健一さんはこの短編集で初めて読んだのですが、一読して「喰えないおじいちゃんだなあ〜」と思いました。お酒を飲み歩いたり、ふらり気ままに旅したり、自分の食べたいものを延々空想したり。「広い場所に人間が少なくて始めて文化と呼ぶに足りるものが生まれる」と文明論らしきものを書いておきながら、その後すぐ「それはどうでもいいとして」と続けられたときは、思わず笑ってしまいました。端々に出てくる引用などから、様々な思想や理論や知識を持っているのがうかがえるのですが、それらを知った上で「どうでもいい」と言えるのが、なかなか粋で洒脱です。そしてそれらの具体的記述とまったく区別なく、空想部分が繋がっていて、軽い足取りでひょいっとあちらに渡ってしまいます。文体も自由気ままで、「それ」と指示語を置いておきながら「それ」に当たるものが見当たらなかったり、てにはをの使い方もやりたい放題。半隠遁した趣味人の気ままさを感じて楽しかったです。