S「上海ベイビー」衛慧

文春文庫


25歳の主人公が尊敬する人はヘンリー・ミラーとココ・シャネル。各章の前に引用されるテキストもお話に出てくる様々な固有名詞*1も、私が親しんできたものと同じ。上海の女の子の生活を形作る成分や精神構造は、大阪の女の子とあまり変わらない。クラブやドラッグやブランド品などの都市風俗や時事的なニュースもさりげなく記されていて、同時代を生きている感覚がある。
主人公は作家志望でウエイトレスで、性描写が大胆で…山田詠美「ひざまずいて足をお舐め」を思わせるが、東京の女王様よりも上海の女の子の方がピリピリして痛々しかった。
いらつき疾走する複雑な主人公が友達だったら疲れるだろうな。会って話すととうんざりするし共感はできない。でも「最近どうしてる?」と聞かずにはいられない。どこか可愛らしくて憎めない女友達。

*1:ダリ、ニーチェアレン・ギンズバーグソニック・ユース、ポーティス・ヘッド等