M「ショールの女」シンシア・オジック  

草思社


でわでわ、同じくホロコーストがらみの小説を。ああでも、お話にからむというより、お話の芯になっていると言った方がいいかもしれないです。
ホロコーストをくぐり抜け、フロリダに独り住む老女ローザは、三十年たったいまも死んだ赤ん坊の幻だけを抱えて生きています。一言も発さなかったけれど、でもショールにくるまれて生きていたのに、鉄条網に投げつけられ感電して死んだ赤ちゃん。知識階級だった彼女は、イディッシュ語を話す労働者階級のユダヤ人を憎み、ドイツ人を憎み、アメリカ人を憎んでいます。一度地獄を味わった彼女の底の見えない憎しみが感じられて、かすかに救いがあるように描かれたラストも、素直にそうは思えなかったです。