S「きもの」幸田文

SandM2005-03-13

新潮文庫


主人公るつ子の青春時代を、様々なきものを通して描いている。パリッと糊のきいた木綿の浴衣、シャキッとした銘仙、肌にしっとり重くなじむちりめん、なぜか肌がかゆくなってしまうモスリン。まるで自分が身に纏っているように感じられる感覚描写が素晴らしい。
3月11日のMさんのコメント『怒りや欲求不満で自分の思考力を失ってはならない。それが、自己を抑制できるかどうかを決める核心なのだ』で思い出したのが、主人公るつ子が一緒に暮らしている祖母の言葉。これがまた素敵なのだ。

何をどう滅入ったのか知らないけれど、とにかくまぁご飯の仕度はしてしまおうよ。
そんなくよくよには区切りをおつけ。気持ちは気持ち、ご飯はご飯、さらっとおやり。

ご飯もくよくよもウキウキも一緒くたにして気分が変わる自分と比べて、明治女のこのキリリとした格好良さ。私は祖父母と暮らしたことがないので、るつ子を羨ましく思う。昭和女も丁寧に歳を重ねたらこんな風にぴりっとしたご隠居になれるだろうか。