M「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」ジェフリー・ユージェニデス

早川書房


たくさんいろいろ連想したのですが、タイトル妹つながりでこれを。
これは、次々に自殺したリズポン家の10代の5人姉妹に憧れていた“ぼくたち”が、彼女達の思い出と共に、なぜ死んでしまったかを推察しようとする回想録の形をとっています。
男の子が欲しかった父親。支配的で独善的な母親。全く違う個性の五人姉妹。そして家事をひきうけていた末娘が自殺してから荒れ果てる家。
畳み込むスピードで次々とエピソードが語られますが、決して正体の明かされない“ぼくら”によって語られる五人の生活はそれぞれに常軌を逸しながらも、根底で共通の絶望をほのかに感じさせます。彼女たちは自らの輪の中で閉じこもり、結局はその中で完結してしまうのです。
こういったことはなんとなく感じられたのですが、少し「うーん…」と思ってしまった部分もありました。それは“ぼくたち”(ひいては作者)が、若くして死んだ彼女たちを“美しいもの”と見ている、その視線です。状況を提示するのみで彼女たちの葛藤に必要以上に踏み込まない手法は作者の狙いなんだろうなあとは思いますが、内面のドロドロを描かないその一方で、埃にまみれて死んでいく彼女たちを妙に偶像化しているので、もうひとつ姉妹に現実味がなくて、「あーこの人(作者)はこういう風に見たいんだろうな…」と思いました。
まあでもエピソードの中にはなかなか惹かれるものもありました。中でも次々男の子を引っ張り込んで真冬の屋根の上セックスするラックスの描写は、その“旋回技”が映像的で印象に残ります。佐々田雅子さんの翻訳も読みやすかったです。