S「花を運ぶ妹」池澤夏樹

SandM2005-02-16

文藝春秋


目に鮮やかな色彩とむせかえるような香りの花と果物、棚田の静けさと街の喧噪。舞台はバリ島。絵描きの兄は旅の途中、麻薬中毒になり投獄されてしまう。妹は兄の冤罪を信じてバリ島へ向かい、救い出そうと賢明の努力をする。兄「哲郎」と妹「カヲル」が章ごとに交互に語る中で南国の空気が再現されていて、読んでいるうちに今すぐ飛行機に乗ってバリに行きたくなる。
一番好きなのは結末近くの、カヲルがカフェでお茶を飲んでいるシーン。強い日差しがテーブルの上に濃い影を落とし、その影の中を蟻が歩いているのに目をとめる。蟻はすぐそこに強烈な日が射す場所がある事をまだ知らず足元だけを見て懸命に歩いている。カヲルは、自分も今は暗い道を歩いていると思っているが、すぐそこに明るい光があるのだと直感する。うろ覚えだけど(いつもだ…)、そんな感じだった。
バリに行って、緑の棚田で両腕をいっぱいに伸ばしたい。