S「死霊の恋・ポンペイ夜話 他三篇」テオフィル・ゴーチェ

岩波文庫


神学校を卒業したばかりの若い僧侶に吸血鬼クラリモンドが恋をする。司教によって救われるが、66歳になった今も忘れることのできない面影としてつきまとう死霊の美女。
ポンペイの遺跡を旅する若者が、女性の身体の形が押された溶岩を見て想いをはせる。ヴェスヴィオ火山の噴火で亡くなったその麗人が夜になると蘇り、若者を屋敷へと誘う。
どちらも生きてはいない絶世の美人が若者を誘惑する。芳香と宝石、美しい絹の光沢や鮮やかな織物の模様。美酒と果物。まばゆいばかりの世界で若者は恋に目がくらんでしまう。ここには収録されていないが、「ミイラの足」もミイラの足を入手し文鎮にしていた青年の部屋に、元の持ち主のエキゾチックなお姫様が現れる話。美と愛と死が欠けることなく揃っている。シチュエーションは似ているのに「浦島太郎」が色っぽくないのは、死が足りないからだと思う。めくるめく夢の世界にうっとり。