S「ANIMAL LOGIC」山田詠美

新潮社

私は、きっと誰も愛していない。
それと同時に、きっと、すべての人を愛している…

ヤスミンは美しい豹のような女性。生来の自由さと独特な愛情を備え持ち、様々な人々が暮らす“動物園”マンハッタンで日々を呑気に送っている。彼女は黒人で、つきあう人々の人種も国籍も年齢や性別も問わない。問うのはその人間の精神と肉体のありようだけだ。固定観念差別意識を持つ人々の不自由さに驚き、わざわざ好奇心で近づいて行く(それで痛い目に遭うこともしばしば)猫科動物のような女なのだ。

自由に生きるってどういう事なのだろう。仕事やしがらみから逃れると自由になれるのか?愛情から束縛や執着を除くと魂を解放できるのか?…今の生活の中で、私はどうすれば自由を感じる事ができるのだろうか。読みながらそんな事を考えてしまう。
ストーリーはとても俗っぽくて、同時におとぎ話のようでもある。現実世界もそんなものだと思う。しかしよく目を凝らしてみると、日常生活という覆いの下で自由な精神や思想が人々の間に感染してゆくのが見える。その連鎖が綿々と続き、ささやかな生活の中で自由は繁殖してゆく。自由とは、精神のあり方なのだと思う。たとえ窮屈な毎日であっても、窮屈な肉体に閉じこめられていても、自由でいられる(はず!)。