S「影の獄にて」L・ヴァン・デル・ポスト

思索社


映画「戦場のメリークリスマス」の原作本。
ジャワの収容所で辛い時期を過ごした友人同士が5年ぶりに再会し、クリスマス休暇を過ごす。3夜にわたって戦争中に2人の心に深い印象を残した人物の事を物語る。映画とは違った静けさが感じられるのは、物語が追憶の中に設定されているからだろうか。
戦争中の特殊な状況下の敵味方、すれ違ってしまった兄弟、出会ってすぐに引き離される運命の男女。作者はどの人物にも深い理解と共感を示す。作者はアフリカ生まれの英国人だが、日本人の行動や精神について深く学んでいるのに驚く。
人の考え方はそれぞれが持つ背景(文化や宗教や経験などの数え切れない要因)によって違っている。違うものを認めるのはとても難しい。それでも「魂がふれ合う瞬間はあるのではないか、和解の希望を持っても良いのではないか」とヴァン・デル・ポストは思わせてくれる。