S「嫌われ松子の一生」 山田宗樹

幻冬舎文庫


ニュースやうわさ話で誰かを知る時、その人はもう既に「殺人犯」とか「騒音を出すおばさん」とか何者かの役名で語られる事が多い。最初からそうじゃなかったはずなのに、どこでそうなったんだろう?というのがいつも疑問で、その人が生まれてから今日までの経過を知りたいとよく思う。この本はまさにそんな私のニーズにぴったり!
松子は真面目でちょっと意固地で可愛らしくて実は無鉄砲。20代半ば郷里で中学教師だった時に失踪し、流転の末に53歳で惨殺される。ゴシップ的に語ることもできそうな物語だが、読み進むうちに松子が自分の古い友達のような気がして他人事ではなくなってくる。
人生の岐路で悉く危うい道を選んでしまう松子の一生は、私の人生ではあり得ない事件の連続だ。「あかんやん、松子」「そっちじゃないって」とハラハラしながら読む。でも実は私の中にも松子はいないだろうか?だからこんなに松子の事が放っておけない気持になるのでは?
心乱れつつ、気がつけば松子と一緒に懸命に疾走している。まさに取り憑かれたように読んだ本。