S「マンク」マシュー・グレゴリー・ルイス

国書刊行会


“聖職者”と“欲望”で思い出したのは、表紙のマーブル模様が美しい「世界幻想文学大系」の2巻と3巻に収録されたこの作品。
修道僧アンブロジオはその厳しい禁欲と高徳ゆえに悪魔の目にとまってしまい、破戒僧として堕ちてゆく。悪魔や尼僧の恋や彷徨する幽霊や宗教的戒律など、あらゆるゴシック的な要素が詰め込まれている。お話自体は少し長いけれど、退屈する暇などなく、ただただ物語に呑み込まれ引きずって行かれる感じ。幼い頃からやたら寛容な仏教思想にどっぷり漬かって育った私なので、厳格なキリスト教徒である登場人物と同じ苦悩を分かち合うのは難しいかもしれない。そんな私でも他人行儀ではいられない、何か宗教や人種や時代を越えた力があるような気がする。読み終えた時に大きく息をついてしまう、壮大な渦巻きのような物語。