M「このページを読む者に永遠の呪いあれ」マヌエル・プイグ  

現代企画室


タイトルがすばらしく印象的なこの作品は、ある老人とその介護人である若い男、この二人の会話文のみでほぼ成り立っています。老人はラテンアメリカ政治犯として拷問された過去があるためか精神的に不安定で、青年は生活のため仕方なく介護人をしているだけで別に志望があり野心的で嘘吐きです。老人は青年に自分の話をするようせがみ又自分の経験も思い出すのですが、青年の話はいつしか老人の過去に転化され混同され、老人の夢や妄想、青年の嘘や思い出、すべてがごちゃまぜになってゆき、さきほどまでの会話は次の一言でひっくりかえされ、どれが嘘で現実で過去で現在かわからなくなっていきます。
これらのことを、とことん会話のみで進行していくプイグの豪腕に嘆息しますが、それ以上に溜息をつくのは、その底に流れるわかりあえない絶望感です。結末はとどめかもしれません。いかに脆くザラザラとしていることか。救いがなく、深く沈んでしまいました。私にとってはとても残る、大切な作品です。