M「ベロニカは死ぬことにした」パウロ・コエーリョ  

SandM2005-03-24

角川書店

★ご注意!今日のMはとっても辛口です

タイトルが魅力的ですし期待を持って読みはじめたのですが、読後思わず『ハア?』と呟いてしまいました。主人公が遺書がわりに雑誌社へ抗議文を書くという導入部分は良かったのですが、その後の展開はダダ崩れです。主人公が入院する精神病院の人々の過去や主治医の思想などが挿入されますが、どれも繋がりもなく唐突に入ってきますし、語られるエピソードはありきたりで平凡で、感銘を受けるには程遠く、それへの描き方(ひいては作者の考え方)がうさんくさくて、読むほどに疑問を覚えはじめます。その上自殺を図った主人公が助かったもののあと数日の命と知らされ生きようとする展開に至っては、思わず怒りを覚えました。
なにより腹が立つのは、作者がそれを良しと思っている点です。それが自殺志願者、希死念慮の解決策と考えている点です。どうもニューエイジ思想にありがちな<悪い方向での楽天主義>が文章の間からチラついて、その底の浅さに、ああ読んだ時間損したなあと心底思いました。

S「体の贈り物」レベッカ・ブラウン

マガジンハウス


Mさんのレビューに思わず爆笑。なぜなら私も「いつか面白くなかった本の話になったらこれ書こう」と思っていたのが『ベロニカ』なんだもん。タイトルとカバーですっかり期待してしまって、「もうそろそろ面白くなるはず」と騙し騙し読んだけれど、最後まで挽回できずに読了。主人公が夜の病院でピアノを弾く青年と踊る所(うろ覚え)は、ただそのシーンが書きたかっただけなのだろうなと思った。


図書館で『ベロニカ』と同時に借りて読んだ「体の贈り物」は、予想以上に面白かった。ホームケア・ワーカーである「私」とエイズ患者達の11の物語。淡々と描かれる日常。食事をし、入浴し、話をするというような日々のシンプルな時間が大切に語られる。主人公のそれまでの人生とか容姿についてはほとんど出て来ない。「今」がそこにあるだけ。社会的にエイズを描くとか、感動シーンの連続などではなく、いつかは失われてしまう毎日を静かに見つめる。死にゆく人ばかりが出てくるが、決して暗くはない。ただ前向きでもない。読みやすくて、しみじみ「良いなぁ」と思える作品。