M「ネヴァーランドの女王」ケイト・サマースケイル 

SandM2005-03-23

新潮社  


型破りな女性の伝記、ということで思い出したのがこの作品。これは1920年代に名をはせた、“ジョー”カーステアズについての伝記です。どんな人かと申しますと、大富豪の娘に生まれてモーターボートを乗り回し、男装して数々の女優と浮き名を流し、果ては小さな島を買い取って君臨した女性です。本人は知的なタイプじゃ全然なく、ただただ己の衝動の赴くまま行動しただけなのですが、それがなぜ許されたかというと、時代の背景もあったかもしれないし、本人に状況を意のままにしようとする強い意思があったのも確かですけれど、大きな要因は、やっぱりお金の力じゃないかなあと私は思いました。だって、世間でレズビアンに対する逆風が吹き始めるやいなや、島を丸ごと買い取って、道路ひいて博物館建てて病院建てて教会建てて、勿論自分のすむ白亜の家も建てて島へ逃げ込んで、そこで奴隷に囲まれ王様然と暮すのですもの。そりゃあ、『あたしが追い出されたんじゃないよ。見捨ててやったのさ』とうそぶくことも出来るよねーと思いました。それは愛人や友人に対する態度も同じで、気まぐれ悪戯の数々はしばしばイタズラの域を越え、刑事事件になりかねないのも多々あります。
個人的には全く好感の持てない人物なのですが、その人生が終わりに近づくにつれ、思わず涙してしてしまいました。それは彼女が“トッド・ウォドリー卿”と名づけた人形に対する偏愛です。布地は褪せ、肌色が剥げても、なお捧げるその愛情が、哀しく切なく感じました。とても面白かったです。

S「異端の肖像」澁澤龍彦

河出文庫


ジル・ド・レエやヘリオガバルス、モンテスキウ等、ヨーロッパ史上独特な7人の異才について語られている。
バヴァリアの狂王と言われたルードヴィヒ2世もお気に入りの城を作ってそこで暮らした人。幻想的な雰囲気を愛した王は洞窟の部屋や、ヴェルサイユ宮殿の模倣の様な部屋等、様々な演劇的な空間を作った。熱狂的にワグナーを愛した彼は、夜になると中世の騎士の服装で各部屋の壁画の前をさまよい歩いた。トリスタンやローエングリンの物語の登場人物になったつもりで。ヴィスコンティの映画で自慢げに王が指し示す白鳥のボートは安っぽく神秘的な雰囲気は感じられない。豪奢な造りであっただろうと想像はするけれど、カラオケボックスの『中世風の部屋』(あるのかなぁ)位にしか見えないのではないだろうか。幻想の中にある美しい物を現実に引き出すなんて台無しだ。それもわかってやってたんだろうな、と痛ましく思った。