S「記憶の書」ジェフリー・フォード 

国書刊行会


あまり良い印象のないまま終わったこのシリーズ第一作目だったけれど、半年経ってなんとなく続編を手に取ってみた。
するとどうでしょう!1作目は1ヶ月もかかったのに、これは2日半で読了。つまり面白かったのです。


理想形態市の崩壊から8年経ち、冷酷だった元観相官のクレイは全くすっかり別人のようになって暮らしている。薬草を摘んでは村人の役に立てたり赤子を取り上げたりして人々にとけ込んでいる。
そんなある日、村の広場で突然マスター・ビロウの声が聞こえてきて、クレイが暮らすコミュニティーの村人達は眠り病に陥ってしまう。彼らを救う薬を探しに、クレイはビロウの頭の中にある浮き島へ旅立つ。
そこでは物や人に記憶をあてはめてビロウの発明したあらゆるものが保存してある。頭の中の部屋に物を配置する記憶術があるのは聞いたことがある。一体どうするんだろと思っていたので、興味深く読めた。


不思議なイメージの連続、奇天烈な設定も今回はより楽しく読めた。人語を話し眼鏡をかけた魔物。美薬(という名の麻薬)や白い実や緑のヴェールなどの3作を通じて登場する象徴的な物も効果的に配されていてわくわくした。
浮き島の周りの水銀の海は、常に表面の波がビロウの人生の様々な場面を再現して常に動いているというのも美しい。
私はとりわけ〈トッテコイ〉が好きだったな。空中を移動する生首だけの女。黒髪はヘビの様、唇は暗赤色、残虐さが見える緑色の顔。鋭い歯と虹彩のない目は純白。島に囚われている人達の記憶を吸い取って去って行く役目。
第2部のヒロイン、アノタインも好きだ。強くて弱くて、存在感があるのにはかない。
第一部のクレイがあんな嫌な奴だったのは、2作目への為だったのかと納得。1作目を読んでそのままやめなくて良かった。