M「クリスマスに少女は還る」キャロル・オコンネル

東京創元社


さてさて、最近読んだコレが、女子友情ものでした。
いやミステリなんですけど。
Sさまのは歳の差友情でしたが、これは同い年少女達。


これはねえ…もう読みながら、色んなところで涙ダダモレでした。
とにかくサディーが素敵すぎる。
若干10歳でホラー映画に精通、部屋にはおどろおどろしいポスターに作り物の目玉にゴム製の反吐が溢れ、作り物の矢に偽物の血で道路に倒れ通りかかった警察官をビックリさせては大笑いで逃げていく彼女。
その彼女が、親友のグウェンと共に、小児性愛者で連続殺人者のサディストに誘拐されるのですが、閉じ込められた木の生い茂る地下室(!)で、犯人に立ち向かうべく、知恵をこらし、時には危険を犯しながら、奮闘するさまがとても勇敢。
そして彼女のグウェンを気遣い、励ますさまがね、なんとも愛情に溢れているのです。


つーかもうあのラストは反則だろう〜!(涙)


いやあ、そうきましたか…。そう思って読み返すと、サディーがグウェンにささやく「あたしにあんたを置いていけるわけがないでしょう?」という言葉が、別の重みをもってきて…。胸が詰まりました。というか泣きました。(何度目)


あと好きなシーン。
サディーの母親が(この人も素敵なのです)が捜査陣の会議に闖入し我が子の生存を訴え「みなさんはあの子を愛さずにはいられなくなるわ」と宣言し、捜査官が泣きながら過去犠牲者の死体写真を隠す箇所。
夜中、車で我が子を探す誘拐された二人の子供の父親が、偶然出会い、黙って見つめあった後、またそれぞれの方向へ車を進めるシーン。
子供達の親の描写は読んでいて辛いくらいです。


そして。
選択性緘黙症で大人とは話せないデイヴィットとルージュが空き地で野球を始め、通りかかった巡査が声をかける箇所。
「『おいおい、危ないじゃないか。やっぱり外野がいないとね』こうして、三人のゲームが始まった。さらに何分もしないうちに、州警察のひとりが制服姿のまま仲間入りした。そしてまもなく、ネクタイを外した州警察の捜査官が、両腕に全員分のグラブを抱えて走ってきた」いやーんもう!。
やがて通りかかった子供達も次々金網をよじのぼって参戦し、皆は車を動かしてヘッドライトで空き地を照らす。その空き地は安売り店に買収され、春にはセメントに覆われてしまうのです。その束の間を惜しむように野球に興じる大人と子供の姿に、クリスマス前の雪の夜が、まるで真夏の晴天日のもとの光景に見えてきます。大好きなとこなのでしつこく書きました。


この束の間の時間を惜しむ、という描写に惹かれるのは、その儚さがいとおしくなるのだと思うのですが、考えてみれば、人間関係も、いや人間自身も、期限が明確にされていないだけで時間が限られているのは同じなのに、日常それに思い至ることなく過ごしてしまっています。うむ…。


文庫本で623ページ、登場人物も沢山おりますが、他キャラクターも個性もって描かれています。捜査側のアリ・クレイなんか頬の右側にギザギザの傷痕があり唇の片方は上に引き攣れているんだけど、それを強調するかのように赤い口紅を塗ってたり中々強烈。でも実は過去事件に深く関わっており強い贖罪の気持ちを持っている。それぞれ欠点とか難ありではあるんですが、嫌な気持ちになりません。ああ、アリの伯父モーィマーは駄目ですね。あいつは許せん。死んでよかった。
確かに長いし途中捜査側の描写がすこしまだるっこくて多少辛かったりしましたが、それ位。良かったです!