S「万寿子さんの庭」黒野伸一

小学館文庫


ただもう「庭」という言葉と、「ハタチと78歳、半世紀の年齢差を超える友情!」という帯にやられて衝動買いしてしまいました。


主人公の京子ちゃん(ハタチ)も、引越し先のご近所の万寿子さん(78歳)もちょっと変わった人。だけどすごく愛おしい。京子ちゃんは可愛いのに斜視を気にしている。同期の素敵な男子に話しかけられても愛想のない答えしかできない、不器用な女の子。万寿子さんも変わってる。挨拶されても無視したり、急に「寄り目!」と言ってみたりする。それでしてやったりって満面の笑顔。普通の老女ではない。


なんだか二人とも可愛いのです。どうも素直じゃない所がすごく可愛い。誰も知らない、読んでいる私だけが知ってる可愛らしさのような気がしてくる。
京子ちゃんが万寿子さんに意地悪されたりスカートめくりされたりしながら(小学生の男子みたいなアプローチ)、だんだん仲良くなるところが秀逸。
京子ちゃんは気になる男性に挟まれていながら、でも万寿子さんが一番大切で、気になる男子がどんどん後回しになる。そんな所が激しく共感できるのだ。

そして2人の楽しい箱根旅行から、物語は急転する。万寿子さんの戦争体験、悲しい過去、そして急激な老化…。


読み進みながら自分の無二の親友が老いて行くような、せつなさと焦りを覚えた。
同年代の友人なら一緒に年老いて行く事ができる。でも年の差58歳なので壮絶なものだ。欠勤続きで職場での地位が危うくなっても、彼氏候補なんか振り切っても、友達の世話をしたい、しなきゃならない。京子ちゃんの気持ちと同調して読んでしまう。

他人の限界を超えた介護生活、介護される側の悲しみ。年齢差ゆえの立場の差。万寿子さんの繊細な気持ちがその遺書で明かされる。


このふたりはお互いを「半身」なんて思っていないと思う。それぞれが自分の人生を生きながら、いつも片目の端でちゃんと相手を見てるのが良いと思う。「友達」で充分、「分身」である必要はないんじゃないの?こんな風にしてあげたいと思うのが女友達なんじゃないの?と私は思う。
読後しばらく私は喪に服しているような気持ちで過ごした。2度目はまだ読めないが、もうすぐ読んでみるつもり。
こんな友達と巡り会える人生は幸せだと思う。