S「スピリットとアロマテラピー/東洋医学の視点から、感情と精神のバランスを取り戻す」 ガブリエル・モージェイ

SandM2007-02-14

フレグランスジャーナル社


 アロマテラピーの源流は古代インドのアーユルヴェーダや古代シュメール人の薬草利用、エジプトのミイラ作りや祭祀に遡る事ができる。人類全体の持つ薬草に関する知識の蓄積が、20世紀のヨーロッパにおいて現在のような「アロマテラピー」として成立した。
 アロマを使い始めた頃の私は「不眠や肩凝りや花粉症にも効く便利で素敵なリラックス法」というイメージを持っていた。歴史や薬理作用を学んで芳香療法が医学的(化学的)に理にかなっている事を知ったけれど、やはり西洋くさいなという気持ちがどこかにあった。この本を読んでからはアロマテラピーにはさらに別の姿が見あるような気がし始めた。
 著者のガブリエル・モージェイはイギリス人。英国には人の身体の一部分を治すのではなく全体のバランスを整えるホリスティック・アロマテラピーという考え方がある。この書籍の中では部分と全体、肉体と精神、西洋と東洋など、二元論的に考えられがちな物がひとつの物として語られている。西洋由来のアロマテラピー東洋医学で使うような陰陽五行説で説明していて違和感がないのが面白い。


 第一章ではアロマテラピーの概説、マッサージの手法、陰陽説の説明、五行説の説明、占星術精油の関わりについて話される。第2章では個々の芳香植物の解説に入る。たとえば、ローズの性質は「涼・湿」で五行は「火」、ティートリーの性質は「温・燥」で五行は「金(そして火)」などとある。薬理作用の説明も心理的な効果も詳しく記載されている。一般的にアロマテラピーで言われている効果効能に植物自体の性質を合わせて考えると、自分に必要な物がさらによくわかるという算段なのだ。不思議なことに自分が今とても好きだと思っている香りは症状が求める物と合っていたりする。頭でっかちな私でも身体は必要な物をちゃんと嗅ぎ分けているのだと嬉しくなる。
 最終章ではいよいよバランスを取り戻す為のブレンディング方法。たとえば鬱状態ひとつ取っても原因や症状や人の性格が違うので、ひとりひとり違うものだと考える。「水・木・火・土・金」のうちどの性質を持った症状(もしくは人)なのかが必要な芳香植物を選ぶ手がかりになる。その人に合った植物は抑えつけられた精神と身体の両方にゆっくりと力を取り戻す手助けをしてくれる。


 漢方や経絡図、曼荼羅ギリシャの神々など、どのページを開いても嬉しくなってしまうようなイラストが描かれている。中国の知識は中国だけのものでなく、インドの英知はインドでだけ有効な訳ではない。どれも全て繋がっていて、どの文明も違う言葉で同じ事実を伝えているのだ。この大きなパズルが完成したような感じは岡野玲子陰陽師」の最終刊の読後感ととても似ている。
 運動会の朝にお腹が痛くなったり、辛い仕事に向かう時には胸が苦しくなるし、心配事がなくなれば肩も軽くなる。心と身体は影響しあっているし心理的なアプローチが身体を変えることは誰もが知っている。この本を読むと、そんな当たり前だけど不思議な事を追求したくなってくるのだ。そのうちに魔女的ブレンディングもできそうな気がしてくる。アロマテラピーを学ぶ今の私には、なくてはならない座右の書である。